ヒーターのスイッチを布団からゆるりと抜け出していれた。タイマーのエアコンも効いてくる頃だ。乾燥が終わった洗濯物をとりだし、おもむろにたたんでいく。ほこりか寒さでくしゃみが出た。
身震いしながらパーカーを羽織るとタケルは体を温めるために、コーヒーを入れた。朝食をとる習慣はない。スマホを見たら、今日は午前出社の日だった。
ぼんやりとしている暇はなかった。昨日と同じスーツではまずいので、クローゼットから適当に出した。ネクタイも昨日よりも薄い色に差し替えた。
洗面台で顔と髪を整えたあと、その手を見た。あの夢の中でこの手は……。いや、違う。タケルは夢だと思い自分の手を固く握った。
大学時代の薫との思い出も、コンビニで見かけた女性のことも忘れて仕事に立ち向かう。タケルは自分に念じて、部屋のドアを閉めた。
スマホには仕事の予定が結構詰まっていた。これじゃあ、ほとんど正社員と変わりない。自分が試されていると思いながら、毎日を疲弊していたことがストレスになり、悪夢の原因だと判明するには時間を要した。
スマホのニュースで女性の通り魔殺人がここ最近市内で起こっていることをなんとなく見てはいたが、タケルは三月までは入試で業務が立て込んで気に留めることもなかった。
世間ではテレビのニュースでシリアルキラーや連続女性殺人と騒いでいたが、タケルの耳には入ってこなかった。
いや、悪夢と酷似しているので自分から無意識のうちにターミネートしていたのかも。