五
運動会も近づいて、体育の時間に、フォークダンスの練習が始まった。亜紀と真一が踊る順番がやって来ると、妙に意識してぎこちなかった。
亜紀が、苦笑いを浮かべると、真一は怒った。
「笑うな」
「だって、どうしても山下君のこと、意識し過ぎてしまうんだもん」
「他の生徒が見ているから、やめろ」
「うん、分かったよ」
もとの鞘におさまって、亜紀は、黙って真一と踊った。
運動場で、普段から亜紀をいじめている女子生徒を見ると、真一は突然、侮蔑するように声を立てた。
「あんな女の子、嫌いだな」
それを聞いた他の女子生徒が互いに顔を見合わせた。
「やっぱり、山下君、亜紀に惚れているんだ」
ひそひそと、亜紀の周りで囁いた。亜紀は、何が起こっているのか、その時、よく把握できなかった。
やがて、亜紀が放課後に一人でいると、女子生徒が数人、囲むように集まって来た。一人が言い放った。
「山下君、亜紀に、ほの字なんだよ」
「えっ、どうして分かるの」
「体育の時間に、山下君を観察していれば勘が働くよ」
「みんな、推測を働かせているんだな」
亜紀は驚いてしまった。
それからというもの、亜紀と真一の関係は、噂で持ち切りになった。亜紀は、恋人の関係否定に苦労した。
「山下君との関係は、友達以外の何ものでもないんだって」
友人は、みんな勘ぐった。
「えー、もう、恋人として付き合ってるんじゃないの」
「違うって、そんな関係じゃないんだって」