四
高校生活に慣れたころ、隣の席の飯田強(いいだつよし)が、亜紀に数学の問題について尋ねたら、真一は嫉妬した。
「おい、飯田、うるせいぞ」
数学の基礎を強に教えているだけだったので意外だった。
「なんで怒るの、山下君、これは数学の基本よ」
真一は、なおさら憤った。
「うるさい、俺は、今日は、機嫌が悪いんだ」
亜紀は、何で真一が気分を害しているのか、疎かった。
真一は、亜紀の様子を窺いながら聞いた。
「田中、おまえ、何時に下校するんだ」
「部活が終わってからだから、午後六時ごろになると思う」
「今度、一緒に、マクドナルドのハンバーガーを食べに行かないか」
「えっ、デートに誘っているの?」
「いや、友達の関係でいいんだ。食事に付き合ってくれないか」
「いいよ」
思っていたよりあっさりと提案を呑んだ亜紀に、真一は喜びの表情を隠せなかった。
「実は、終日、マクドナルドでは、ホットケーキセットが三百二十円で食べれるんだよ」
「へぇー」
「行こうよ」
「うん、分かった」
亜紀と真一は、お互いに頷き合った。
週末、部活が早く終わったので、亜紀は真一と待ち合わせの約束をした富山駅前のユニーというデパートの前まで向かった。真一は、早くから来ていたようで、約束の時間には、立って待っていた。
「おー、来てくれたのか」
「当たり前でしょ、約束は守るから」
「じゃぁ、マクドナルドへ行こうぜ」
「うん」
真一と亜紀は、道を恋人同士のように並んで歩いた。
「腕が、寒いな」
真一は名言を吐いた。
「腕を組んで欲しいってこと?」
「そう」
「いやよ」
「ちぇっ、つまらない」
そうこうしているうちに、マクドナルドへ着いた。