メニューには『ホットケーキセット』が載っていた。亜紀はレジで店員に即、頼んだ。

「ホットケーキセットをブレンドコーヒーのSサイズとコンビでいただけますか」

「かしこまりました」

真一が割り込んで来て、主張した。

「俺に、頼ませろ」

「分かったわ、私は席を確保しておくから」

「割り勘だけれども、俺に払わせてくれないか」

「何で?」

「女に払わせたら、俺が恰好悪いやろ」

「そういうわけ、いいわよ」

「ありがとう」

真一はレジで、何も問題は起きなかった、という顔をして支払いを済ませた。

座席に、真一がトレーを運んでくると、思いがけないことを言った。

「タバコ、吸っていい?」

「えっ」

「先生には、秘密だぞ」

「呆れた」

そう言いながらも、亜紀は好きなようにさせた。

一度、嫌悪感を持った後だから、やけに煙たかった。

二人とも照れ屋で、食べている最中、ほとんど会話は交わさなかった。食べ終わると、真一がタバコの煙を亜紀の鼻に吹きかけて来たのが、沈黙を破る瞬間だった。

翌日、真一は、ニヤニヤ笑って、亜紀を誘った。

「友達で良いから、また付き合ってくれないかな」

「えっ、どういうこと」

「だから、恋人ではなく、友人からで良いってことだ」

「まったく、ストレートなんだから」

「どう?」

「友達だったら、なってあげてもいいよ」

「やったー、ありがとう」

喜び勇んで、男友達の中へ駆けていく真一を見て、亜紀は呆気にとられた。

亜紀は、親友の竹内典子(たけうちのりこ)に、真一のことを相談した。

「放課後、マクドナルドで、タバコを吸う男の子って、どう思う?」

「別に、いいんじゃないの、学内じゃないから」

「不良じゃないの」

「いいでしょ、ちょっとぐらいタバコを吸ったって、亜紀に好意を抱いているのなら」

「ありがとう、典子の意見、参考にするよ」

典子と別れた亜紀は、気が楽になり、真一としばらく付き合ってみることに決めた。

亜紀なりに、真一の無邪気な性格が気に入っていた。