貸付金
ある日、佐藤は、鴻池を呼び、「貸付金の経緯について説明してほしい」と言った。
「分かりました。当社は、共立商事株式会社への貸付金について平成六年(一九九四年)五月、国税の査察を受け、李社長への贈与金ではないかと厳しい調査が行われました。
その結果、当時私が経理責任者であったため文書を作成し、道下経理部長名で、東京国税局統括国税調査官に同年五月十八日付で『合弁会社「韓国ディック・ペイント株式会社」にかかわる貸付金の件』と題する文書を提出しました。その内容をお読みいただければ、経緯をよく理解していただけるはずですが、今後KDPとの大きな争点となると思われるので詳細にご説明したいと思います」
「ほう、国税の査察を受けたの」
「そうです。先ず、李正真に対する貸付金四千五百万円についてですが、平成二年三月十四日に二千五百万円、同月二十日二千万円計四千五百万円をS銀行京橋支店普通預金李正真の口座に振込み送金し、李正真個人への貸付金として処理しました。
即ち、当社と李正真との合弁会社であるKDPの第一回目(平成二年五月)の増資資金(四万二、八四〇株、二億一四二〇万ウォン、約四千七百万円)として、同社社長である李正真に貸付けたものであり、債権保全のため同氏所有のKDPの増資株券四万二、八四〇株を担保として取っております。
次に、共立商事への名目上の貸付金一億一千万円についてですが、平成元年六月二十三日一千万円、七月二十六日三千万円、十月三十一日二千万円、十一月三十日一千万円、十二月十五日二千万円、翌二年一月二十二日二千万円合計一億一千万円をS銀行京橋支店当座預金共立商事の口座に振込み送金し、共立商事への貸付金として処理しました。
本件は、書面に名目上の貸付金と書いておりますが、KDPの工場建設資金一億一五八〇万円の調達のためであり、当社が直接融資するのが良策ですが、当時韓国の外国為替管理法により日本から韓国子会社への貸付は、禁止されていたし、韓国現地銀行からの借入は、金融事情が厳しく難しかったことに加え、年二〇%の高利だったため負担が大きく、
これらの問題点を解決するため、パートナーである李正真が経営している共立商事に便宜上貸付し、同金額を李正真がKDPに貸付けるとの合意の下に行ったことであり、
そのため、平成元年六月二十二日に共立商事の運転資金に充てることを理由として貸付ける旨の取締役会の議事録を作成し、最終送金日の平成二年一月二十二日に共立商事を借主とする総額一億一千万円の金銭消費貸借契約書を作成しましたが、当資金はあくまで工場建設資金として用立てたもので、共立商事への貸付処理は名目上であって、実質はKDPへの貸付金であり、これに対する利息は契約書記載の利率で李正真を経由して収入することにしておりました。
債権保全のため李正真所有のKDP設立時の株券四万二、八四〇株を担保として取っておりますが、共立商事からの担保物は徴しておりません。ここまではよろしいでしょうか?」
「うーん、なるほど」