貸付金
「続けてよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「当社としては、李正真に対して平成二年十月から、事あるごとにKDPのために支出した金額とそれ以外に使用した金額及び使途先の明確な回答を要求し、李正真の流用金額については、早急に返済を迫る一方、債権保全のために担保の提供を求めるべく折衝して来ました。
その過程で担保物件となるような李正真自身の財産はなく、平成四年十月になって配偶者である権美子の財産を担保提供するとの申し出を得ました。
早速、北條総合法律事務所の向坂弁護士に担保設定にかかわる折衝及び手続きを依頼しましたが、韓国外国為替管理法に抵触する恐れがあり設定は不首尾に終り、権美子を連帯保証人とさせました。
貸付金の返済期限も切れたため、李正真に対して同年十二月、平成五年二月に返済遅延理由及び返済計画を書面にて提出するよう要求しました。
その結果、漸く平成五年三月二十九日に『借入金返済猶予お願いの件』と、担保として京幾道竜仁郡所在の五〇〇坪の土地の権利証(売却予定金額五億ウォン)を預かり、申し入れを一応了承しました。
『借入金返済猶予お願いの件』では、一億一千万円について、先にご説明したKDPに貸付けた金額を除いて、工場用地買収による失敗で、二億六千万ウォンを失い、共立貿易に残一億四千五百万ウォンを貸付けたと説明しています」
「ちょっと待って、工場用地買収に失敗したというが、事前に相談があったのかね?」
「ありません」
「おかしいね? 続けて下さい」
「ともあれ、一億一千万円の返済期日は、平成四年一月三十一日で、一方、四千五百万円の返済期日は、同年四月三十一日となっていましたので、李正真からは、猶予をお願いするとの書面を受け取りました。
(佐藤に書面を指し示しながら)この書面ですが、『……小職の安易な判断と焦りが重なった結果でありまして、その間回収に努力を注ぎましたが、早期回収は困難な状況で誠に面目次第も御座いません。萬々申し訳なく慙愧に耐えない次第です。お聞き苦しい弁明はいたしません。此の責任を全うしご芳志に応えるべく一層精進いたします。深いご承引賜りますよう懇願申し上げます。
なお、権利証を預かった土地周辺は、新都市開発地域で現在住宅地として開発中で値上がりが予想され、有利に売却したいので二年間の猶予をお願いしたい』とあり、署名捺印は、共立商事株式会社代表取締役社長李正真と、連帯保証人李正真及び、権美子となっていました。
李正真に対して毎年三月と九月に請求しています。
当初から、平成四年三月三十一日までの利息は、発生主義にて計上し、その未入金については、長期未入金勘定に一、八七二万九、三八〇円計上しており、その内訳ですが、四千五百万円分に係る利息請求総額六七八万〇、二〇三円内入金額一四万一、七八〇円未入金残高六六三万八、四二三円で、一億一千万円分に係る利息請求総額一、八三七万〇、四〇八円内入金額六二七万九、四五一円未入金残高一、二〇九万〇、九五七円となっています。
しかし、貸金返済の折衝経過に鑑みて、これ以上未収利息を計上するのは、会計処理上好ましくないと判断し、平成四年九月請求分(平成五年三月期分)の利息から計上しておりませんが、税務処理上は、四千五百万円分に係る利息と一億一千万円分のうちにKDPに入金した部分に係る利息相当分は計上すべきであると判断しました。よろしいでしょうか?」
「分かった」
「また、その時の税務調査を機会に、国税調査官に今後の対応策を説明しました。
即ち、李正真への貸付金の回収については、担保物として預かっているKDPの株券四万二、八四〇株にて代物弁済させるよう折衝すること、流用資金使途についてこれまで再三再四説明を要求して来ましたが、その詳細は未だ明確になっておらず、特に工場用地取得失敗資金を詳細に調査し、使途目的などを明確にさせること、KDPのために使用された資金であれば、KDPは、李正真から借入金として処理すること、連帯保証人であり、配偶者である権美子所有の不動産を調査し債権保全を計ること、
更に、その翌年三月の猶予期間が到来した時には、権利証預かり分の土地があり、当時の評価は、七千万ウォン、約九百万円程度でしたが、この土地の売却を催促することにし、当社としては、KDPを一日でも早く軌道に乗せ発展させることが、最重要事項であり、それには日韓の友好な関係を保ちながら共同事業を運営して行かねばならないとの方針で対処して来ており、今後も共同事業の運営に支障をきたさないよう時間を掛けながら債権回収及び保全の確保を計っていくことが最善と考えている旨説明しました」