じっと鴻池の説明を聞いていた佐藤は、

「事前に相談もなく、工場用地の取得に失敗したというのは、ほんとにおかしな話だね。当時土地の売買契約書とか事実関係を確認していますか?」

と問いかけた。

「先程ご説明した通り、李社長がKDPに入金した金額は、一九九〇年六月三十日現在九、四七二万三、三五三ウォンで、未納額は、四億〇、五二七万六、六四七ウォンです。

李社長の説明では、工場用地取得に際し、水原地区に五千六百坪(五億四千万ウォン)の契約をなし、手付け、中途金計二億六千万ウォンを支払ったが、当該土地は工場用地として認可が下りず苦慮していたところ、知人の極クック東ドン食品朴パク社長が残金三億ウォンを支払い、土地を取得、この土地を担保に資金を借入し、観光事業を目的とした雪岳山観光開発株式会社を設立したものの事業が振るわず、貸付金二億六千万ウォンが回収出来なくなったと言うのです。

本件については、関連証憑を要求していますが、未だに出て来ていません。聞くところでは、雪岳山の麓に、ドライブ・インを運営していたが、新たな道路が出来て、全く客が入らなくなったとのことです」

「雪岳山観光開発の話は作り話ではないのかな?」

鴻池はそれには答えず、

「残余の貸付金について、当時李社長の経営する共立貿易の営業状況は、韓国経済の低迷、輸出の低下に加え、米国取引先が吸収合併され債権回収が不能の状況となり、非常に悪化し、その資金不足に充てた金額が一億四、五二七万六、六四七ウォンであり、李社長は、これらの資金を回収しKDPに入金すべく最大限の努力をすると約束しました」

「うーん、しかし何も実行されていないところを見ると、明らかにその場凌ぎの美辞麗句で誤魔化し、私には李社長に誠意の欠片もないように思えるのだが?」