「ところが、平成二年七月四日に李正真よりKDPが資金不足になるとの申し出がありました。しかし、当社貸付金五億ウォンがKDPに入金されておれば、資金不足になることはあり得ず、資金使途について質しましたところ要領を得ないので、その解明に私が同年七月、十月に韓国に赴き調査しました。
KDPの経理処理は、現地の尹(ユン)税務事務所に委託されており、平成二年六月三十日現在の貸借対照表の各勘定を精査しました。李正真のKDPへの入出金は、仮受金勘定でなされており、その残高九、四七二万三三五三ウォンは当社から李正真を通じてKDPの長期借入金勘定に振替えられており、貸付金額として確定しました。
その不足額四億〇、五二七万六、六四七ウォンは、本来の趣旨に反し、李正真が現地で経営している共立貿易株式会社の運転資金などに流用した金額と判断しました。その際、経理処理が付加価値税込方式であったため除外方式に変更させた結果、還付されるべき付加価値税七、二〇八万七、五四五ウォンがKDPに入金されていないことが判明し、共立貿易の運転資金に流用したとのことで、第二期(平成二年十二月三十一日)決算時に共立貿易に対する短期貸付金として処理させました。
したがって、その後現在まで李正真のKDPに対する貸付金は、同社の帳簿上、長期借入金二、二六三万五、八〇八ウォンとなっておりますが、当社が李正真を通じてKDPに実際貸付けた金額は、九、四七二万三、三五三ウォンです。なお、この間の李正真とKDPの貸借関係については利息を付しておりません」
顎に手をやって聞いていた佐藤は、
「流用したと、とんでもないね。誰も詐欺だということに気付かなかったはずはないと思うのだが?」
「気付いていても、このプロジェクトを推進した幹部は、詐欺だと言い出すことが出来ず、成功させることが唯一、絶対の命題だったのです」
と、鴻池は幹部の気持ちを思いやりながら答えた。