庶民的な店でゴメンね。
うちは魚料理専門なので、こんなチンケなお店でも、魚好きのお客さんがありがたい事にあちらこちらから訪れてくれる。
その中にあまりお客さんの悪口は言いたくはないけれど、何かあきらかに勘違いなさってはいませんか?って鼻につくお客さんもいた。
うちは構えも作りも大衆向け、値段ももちろん大衆向け、だって、私と旦那が営んでいるんだもん、高級感なんてだせる訳がない。
でも品物だけは高級店におとりませんよ! 安くておいしい魚を気軽に食べてもらおうっていうのがモットーの店。
でも、ごめんなさい。それでしたら他のお店で楽しんで下さいねっていうお客さんもたまに来られる。特に女性を連れて訪れるおじさん系に多いんだけど、注文した刺身の盛り合わせを前にして、あっているのかどうなのかと思う魚の講釈を延々と述べていて、私が、
「早く食べてくれないと、なまものなんだから……」
って思っても、
「マグロやカツオはずっと泳いでいるんだよ! ヤツらは泳ぎを止めたら死んじゃうんだよ!」
「エ〜○○さんって博識〜! じゃあ生まれて死ぬまで眠る事はないんだ〜」
「そうだよ。ヤツらは寝る事=死んじゃう事だからずっと泳ぎ続けているんだよ。だから泳ぎ続ければ体が引き締まり、イキのいい身が締まったカツオになるんだ!」
などとしたり顔で刺身を前にして述べ続けている。でも私から言わせてもらうと、マグロだってカツオだって死ぬまで寝ないで泳ぎ続けているなんてありえない!
彼らは脳の部分を右、左に分けて(右脳、左脳の事ね)交互に眠らせて、すごくゆっくり泳ぎながら寝てるんだよ。
って教えてあげたいけど、せっかく彼女にいい所を見せたいのだろうから、おばちゃんはあくまでも知らん顔に徹する事にする。
でも、それで収まればいいのだけど、たまに、
「この○○はね〜、あ、お姉さん、これ、とれたのどこ?」
って聞いてくる人がいる。そう聞かれるとうちは決まってこう答える事にしてるんだ。
「ハイ! 海ですよ!!」
って。これのどこがまちがってる? アユやイワナだったら海!!って言ったら魚料理専門店としちゃそれはもうサイテーだけど、うちが仕入れた魚はほぼ一〇〇%海で泳いでいたのだからまちがいじゃないでしょ。
おそらくそう聞いてくるお客さんは、その魚の産地を知りたいのだろうけど、それはたまたまその魚がそこでとれただけの事。ブランド物の大間のマグロや関サバなどは別として、魚はおいしく口にできればそれが一番なんじゃないかな。