謎の生態、三人衆

ある晩の事、犬を散歩させた帰り道、犬がう〜とうなりはじめた。

犬の目線の先に自動販売機があった。その自販機の前に一見サラリーマン風の若いお兄ちゃんがいる。

お兄ちゃんは、自販機に向かって何かしゃべっている。

近づくとそのお兄ちゃんは「すみません、すみません」と自販機に向かってあやまっていた。

足元はフラフラだ。

内容を聞いていると、「わかってますハイわかってます、すみません、すみません!」のくり返し。

これは、おばさんの勝手な思い込みだが、おそらくその兄ちゃんは、会社で何かへまをして上司か誰かにあやまっているつもりなんだろう。

要するに兄ちゃんの中ではそれは自販機ではなく人間に見えているという事。それはもうかわいそうなくらい平身低頭。

でもコントか! と叫びたくなるくらいの笑えちゃう姿。

だってどうしたらあの物体が人間に見えるの。

あんなガタイがでかくて四角い人間がいたら、おばさんは金払っても見てみたいもんだと思いながら犬を兄ちゃんから引き離すのにやっきになった。犬はその間ずっと兄ちゃんに向かってうなり続けていた。

そりゃ犬だってあの光景はおかしく見えてたにちがいないよね。

公園で酔っぱらいのおっちゃんがイスにすわり缶ビール片手にさきいか食べていた。

もう顔つきはいいこんころもち。

私がその前を通ると、いきなり食べていたさきいかを投げてきた。

「エッ!!」とびっくりしていると、

「あっお母さん、ごめんね! そこの猫に投げたのよ!」

「えっ? 猫? どこに?」

とあたりを見回したが、どこにも猫などいない。

おっちゃんが投げたさきいかは黒い石の近くに落ちていた。

「おとなしい猫でさ〜、ず〜っとそこでエサもらうの待ってるんだ!」

ここまでの話でだいたいおさっしはついたでしょうが、そうです! そのおっちゃんはその黒い石を黒猫とでも思っているのか、自分のつまみを分けあたえていたのだ。

まあ、心やさしいおっちゃんにはちがいない。

酔ってはいても口調はおだやか、いい人なんだろうな〜。

がっ! どこをどう見たらあの石が猫に見えるの!!

近眼なの? 乱視なの? はたまたメルヘンなの?

電車の中で皆が避けてるのをいい事に、座席を占領してどなってる酔っぱらい。横向いて訳わからん事を空席に向かってわめいている。

まあ、私らに向けているのではないので、まだ救われるが、その空席には誰かがいるの?

人間? だとしたらどんな? はたまた妖精? そんなはずないよね。おそらく私らには見えない何かがそこにいるんだよね?

だとしたら、それはもう特殊能力だわ! すごい事です。

ロシアにあるとうわさされる超能力センターにでもスカウトされなさい。

とにかく飲んべーさんは私ら下戸にとって宇宙人にも匹敵する謎多き生き物そのものだ。