潜在能力を次々と明かした高校生
T君と新学期の教室に入れなかった理由について以下のようなやりとりをした。
「中学時代、教室には入れなかった理由についてのことなのだけど、集団が苦手だったし、声やざわめきに敏感だったからだったのかな?」
「う~ん、それもあるけど耳栓をして登校したこともあるし、それだけではなかったと思う……」
「何か入りづらい雰囲気というか違和感みたいなものがあったのかなー」
「う~ん、クラスに入りづらい雰囲気というか違和感があったのかもしれない……」
「つまり、まわりはボクを受け入れてくれているのか、受け入れてくれないのかがわからない感じのような……人の表情が読めないから教室の雰囲気もわからなかったというか……」
「そうかもしれない……。中学時代の行けなかった理由はそれだったかもしれない。みんなの表情が分からなかったから入れなかったかもしれない……」
人の顔色や表情が読めないままクラスの中に入るということは、得体の知れない仮面舞踏会に連日参加を強いられるようなものだったのだろうか。人の表情は読めないのに、なぜいつもニコニコ顔をしているのといえば、人との無用な衝突を避けんがための予防策だったかもしれない。
T君によると、写真を見ても人の顔を特定出来ないという。「レントゲン写真だけで区別することができないのと同じですよ」と彼は言った。年の差のない妹二人についても顔だけでは見分けることはできない。しゃべり方や声の感じ、行動や仕草で判断しているという。
一方、静止画像ともいうべき地図などは一瞬でおぼえてしまう。T君は驚くべき聴力の持ち主でもあった。群衆のざわめきの中から特定の人の声を聞き分けることができるのだ。
正月休みに家族旅行に東京に出かけた際、東京駅構内の本屋で立ち読みして、家族とはぐれてしまった。ごった返す雑踏の中で、T君は妹二人の話し声に意識を集中させ、声の方向へ向かうことで合流を果たせたという。
家族どうしのひそひそ話も遠くから聞き分ける地獄耳の持ち主のため、家では警戒されているらしい。街中を歩くときもおっかなそうな人の声のする方向をキャッチすると、そこを避けて通るし、夜の街を歩くときも人の気配を事前に察して、安全な距離をとって歩いているという。