私たちも二人連れと並ぶようにして、石垣に腰を下ろした。白石ICで高速道路を降りた後、遠刈田温泉街で買ってきた「海苔巻」と「いなりずし」に「ウーロン茶」で昼食。登山靴を履いている二人連れに聞いてみた。
「お宅はどちらから登ってこられたんですか?」
「蔵王温泉のほうからです」
地元の人らしい。男が教えてくれた。
「山寺が楽しみなんです」
「山寺は細かくゆっくり見たら2時間くらいかかりますよ」
「そうですか。見るところがいっぱいあるんですね」
「芭蕉で有名な古刹(こさつ)ですから」
「今夜はどちらに泊まるんですか?」
「天童温泉にと思っています」
「天童温泉は街のなかの温泉でつまらないから、泊まるなら峩々(がが)温泉が良いですよ」
とも教えてくれた。しかし、家で時間をかけて立ててきた計画を、この人の一言で簡単に変えたくはない、と思った(峩々は良いところらしいが、地方区だろう。埼玉の人は知らない。天童は全国区だ……)。
「いろいろと情報をありがとうございました」
昼食後、二人と別れて下山開始。前方には強風のなかにしゃがみ込んで三脚を広げている男性が二人いた。
(コマクサを撮影している人かな)
と近づいていくと、二人の男たちは協力しながら周りを板や厚紙で囲って、風の動きが止まったらシャッターを押そうとチャンスを狙っていた。
私も囲いの上から覗いてみると、なかの花は電気振動のおもちゃのように激しく揺れている。私たちは三脚男に別れを告げて、その場を後にした。風はますます強く山形蔵王のほうから宮城蔵王のほうへ吹き上げてきた。
「いやだ~、飛ばされそう~」
体重38キロの妻は酔っぱらいのように、右に左にふらふらと風のなかを歩く。
私は妻に接近して、腕に体重61キロの自分の腕を絡み付けた(これで100キロだ!)。
足元の小石が飛ばされていく。無数の石が飛ばされながら落ちていく。
「見ろよ、小さな石は飛ばされていくけど、大きな石は飛ばされないよ」
会社や銀行やお店など、合併することがある。生き抜くために大きくなろうと。私たちは結婚して24年。こうして毎日の生活を、二人三脚で生きてきたのだと思った。
私は百名山の一座の頂上に立てたことが嬉しかった。蔵王レストランはもう近い。