𠮟咤激励 愛のムチ

今日、原稿を持って友人に会ってきた。

彼女は私の憧れ、仕事ができる女。女子高時代の友人でマスコミに30年勤務している。

「ノンちゃん、マコ今度本出すから、メッセージ書いてね」

とLINEを送ったら

「なんじゃそりゃ、私はマコのバカ話に付き合うほど暇人じゃないよ」

との冷たい反応。

「それならとりあえず原稿読んでみて」

と、呼び出したら旧友のよしみで休日わざわざ出てきてくれた。そこで、出版までのいきさつを話し出すと、いきなりお仕事モードの真面目な顔になり冷静な声で

「本当に契約したの? お金払いこんだの? 契約書はどこ? 原稿なんか要らないから契約書を出しなさい」

と矢継ぎ早に責め立てられた。

ここまでは「想定内」。大体こうなる展開は予想していた。それにしても思った以上に厳しい反応。私もここで怯んでは駄目だと

「もう全部済ませたから持ってきてないよ。それよりこれ読んでみて、ノンちゃんも出てくるのよ」

と、原稿を渡すと彼女は絶句。

「こっちは昨日飲み過ぎて二日酔いなのに、マコ勘弁してよ~、頭痛いよ~」

と涙声。泣かれてしまっては分が悪い。

「ノンちゃんそんなに怒らないで。マコ頑張るから」

と、私も泣き落とし作戦と、ウル目で訴えたが険悪ムードは増すばかり。

「どうして契約前に相談しないのよ、どうすんのよ」

と本気で怒りだした。ここで負けてはならじと私も食い下がり

「ノンちゃんに相談したら絶対反対されると思ったんだもん」

ここで彼女は頭を抱えて顔をくしゃくしゃにしながら、昨今の出版業界事情を懇切丁寧に語りだした。

彼女はテレビ局の出版部にもいたので事情通。お説教は延々続いた。彼女の熱弁に私もだんだんうなだれてきて、

「私、やっぱりやっちゃったってことかな?」

少し弱気になってきた。目の前でグラスを磨いていたマスターまでも顔が下を向いてきて、なんだか申し訳ない気持ちになる。これまでも「お店をやりたい」「恋したい」などと爆弾発言をしては

「あんたは暇だからそういう馬鹿なことを言うの。ぐうの音も出ないほど労働しなさい」

と諭されてきた。そんな時は、

「ノンちゃんみたいに打ち込める仕事がある人は良いけど、私には何にもないし……」

と少々卑屈になりもした。だから今回、久々に打ち込めるものに出逢えて嬉しかったのに、上手く言い返せる言葉を見つけられなかった。