「買ってやるのは簡単だけど、みんな同じの持ってるだろ、それじゃ個性がなくてつまらねぇ。金がなくても考え方でどうにでもできるんだよ。要するに、アイディアだよ」と言い切る父は、何か自分にも考えがあるように感じた。
「このままの状態で寿司屋を続けては、お客様が減っていくなぁ、どうにかして、家族を支えていける手立てはねぇだろうか」
父は職人というよりは商売人の嗅覚として将来を憂えていた。
当然、一般的に考えるのは、寿司屋としての経営改善。回転寿司にはできない付加価値の付け方や価格設定の見直し、出前などの拡張で販路拡大など、個人店ができる対策を考えるのがセオリーだ。
しかし、父の考えは違った。父のアイディアはときに斬新で人が考えも付かないようなことを思いつく。なんと、根本である寿司を変えたのだ。商売のくら替え。それが “だんご”である。
周りから見れば、寿司職人がだんごをつくるなんて普通考えもつかない。完全にぶっ飛んだ発想で、無茶にもほどがあった。しかし、父には確かな勝算があった。
寿司屋仲間の友人に米を使っただんごをつくっている方がいて、「やってみないか?」という誘いの話があった。
これまで寿司のシャリとして使っていた宮城県産ササニシキ米は、冷めてもおいしいと寿司屋ではお馴染みの米だった。さらに、擦り潰して練り上げると、もちもちしていて歯切れが良く、独特の食感を生み出すことを、長年の職人経験で、父は知っていたのだ。そしてそれを、何かに使えないかと、寿司をつくりながらいつも考えていた。
一般的にだんごは、上新粉や白玉粉、餅粉やだんご粉と呼ばれる、うるち米やもち米を加工した粉を使用してつくられている。それぞれの原料の特徴にもよるが、基本的にだんごは、柔らかくもっちりしていて、冷めても固くなりにくいのが特徴である。