だんごで勝負

「だんごはみんな好きだしね。何より安くて買いやすいよ。だんご屋が当たってよかったね」

そんなことを言われ始めたのは、『いち福』創業から10年くらい経ったころだった。

そのころは、近所や地域の方々に支えられ、少しずつだが常連さんも多くなっていた。しかし、そんな評判も父は腑に落ちなかった。

「あぁ頭にくるな」

だんご屋が当たったという言葉に父は腹が立っていた。

「宝くじでもあるめぇし。別に偶然当たったわけじゃない。うめぇだんごを皆さんに食べてもらいたくて、おかぁと一緒にやってきた結果だ」

普段穏やかな父もこのときばかりは感情をあらわにしていた。そんな父に母は、

「いいじゃない、言わせておけば。お父さんの頑張りは私が一番知っている。二人のなかにその気持ちがあればそれだけで十分幸せよ」

父は母の言葉で救われたそうだが、周りからはしばらく、「転職して良かったね」「くら替えは正解だったな」などの声をかけられ、それを聞くたび、やっぱり腹が立っていたそうだ。

息子が言うのもなんだが、父はあのまま寿司屋を続けていてもうまくやっていたと思う。父のお客様に対するものづくりは寿司だろうがだんごだろうが変わらなかっただろう。

そして、母の献身的な支えも同じだ。二人で立ち上げただんご屋は、決して順風満帆とはいかなかったみたいだが、10年以上続けてきたその事実が二人の頑張りの証だ。

二人がこだわっただんごは、もちろん今の『いち福』でも受け継がれている。串だんごの味は、しょうゆ、ごま、あんこ、ずんだ、くるみ、きなこ、磯辺(現在は焼きだんご)の7種類。

「しょうゆ」は、昔ながら愛される飽きのこないおいしさ。「あんこ」はこし餡で、生地との相性抜群の王道。黒ごまあんがたっぷり付いた「ごま」は、口いっぱいにごまを感じられる一串となっている。

串だんご

ここからは変わり種というか変化球というか、バリエーションの商品。

仙台名物を目指す「ずんだ」は枝豆からつくるペーストを使用し、見た目にも鮮やかでさっぱりとした甘みが特徴だ。「きなこ」は珍しいが、ほんのり優しいきなこの香りは素朴でどこか懐かしい。

個人的には、「くるみ」がおすすめ。濃厚でコクのある味わいは、一度食べたら病みつきになる。荒く砕いたくるみの食感が口のなかでいいアクセントになり、食べた人を虜にする。

そして、意外に思われるかもしれないが、「磯辺」が『いち福』の一番人気。

現在は、「焼きだんご」として販売しているこのだんごは、串だんごのなかで唯一焼いた商品で、その香ばしさが特徴。表面にたっぷり塗られたしょうゆだれは甘さとしょっぱさのバランスが抜群で、年齢問わず幅広く味わえると、午前中に売り切れるほど。

焼きだんご

昔は、その焼きだんごに海苔を付けて、「磯辺」として販売していて、多くのお客様に愛されていたが東日本大震災の津波の影響で状況は一変。

磯辺だんご

8割の海苔の生産施設が流失し、宮城県の海苔産業は、存続の危ぶまれる壊滅的状況になり、海苔の流通も市場では滞ってしまった。