それ以来、『いち福』の「磯辺」は、焼きだんごとして販売するようになったのである。今でも、当時のお客様から、「磯辺だんごはまたやらないの?」「あのだんごおいしかったよね」と言われる。
もちろんつくらなくなったわけではない。あれから長い年月をかけて復興した宮城県のおいしい海苔を使って、最高の磯辺だんごとして復活させる予定である。
それぞれに人気がある7つの味が用意された『いち福』のだんごだが、繰り返し言っているように、生地はササニシキを蒸して擦り潰して練り上げただけのシンプルなもので、いわゆる米の甘みだけでできた生地となっている。
なので、その分、あんこをたっぷり付けて甘みを加えている。その1串にあんこがたっぷり付いているさまは、『いち福』の串だんごのウリの1つでもある。
一口食べると口のなかに広がる、もっちり食感。生地とあんこの絶妙なバランス。優しく甘い幸せが一本の串だんごに詰まっている。
『いち福』の串だんごに対する愛情が深すぎて、熱くなってしまった。しかし、自分で言うのも何だが、一度食べていただきたいだんごである。
「いらっしゃい、いつもありがとね。今日は何にする?」
「んー、しょうゆ」
「しょうゆね、じゃ77円」
「はい、23円のお釣りね」
「ありがとねー」
創業当時は、手軽に買えるようにと、1本77円で販売していた。実際に、子どもが100円玉を1枚握り締めて買いに来る。『いち福』の当たり前の風景で、父と母の気持ちが表れた価格であった。
2021年、『仙臺(せんだい)だんごいち福』として、現在も毎朝手づくりでだんごをつくり続けている。
増税や原料の高騰もあって価格は上がってしまったが、だんごは1本97円。まだギリギリ100円で買える値段である。
「なんでこんなに安いの?」
とよく聞かれるが、これは紛れもなく『いち福』のこだわりである。