華麗なる変身!?

私、岩間隆司は寿司屋の息子として生まれた。

父の店『江戸前好寿司』は、父の気さくな性格と母の献身的な支えで、本格的な江戸前寿司が食べられる店として繁盛していたようだ。場所が住宅地ということもあり、お客様のほとんどは地元の方々。地域に根ざした店として、開業以来、10年の月日が経っていた。お店も順調で家族も幸せそのもの。私たち岩間家の食卓ではいつも笑いが絶えなかった。

「いただきます!」

並べられた料理を見て父が言った。

「これ店で食べたら1500円はするな」

「いや、俺だったら1800円は取るね」

お調子者の兄が話を乗っける。

「まぁ確かに新鮮で脂はのってるけど、そこまではしねぇよ」

こんな冗談にもプロの目で話を切り返す父。

「また、同じ話してる。こないだは、はらこ飯に値段つけていたよね」

姉が呆れたように笑う。

「でもうまいだろ。寒い時期のヒラメは身が厚いんだよ。今日の釣りは当たりだったな。こっちの唐揚げもうまいぞ」

「この骨のところがバリバリっておいしいのよね」

父の魚自慢に母も同調した。

「俺は歯が良くねぇから、そこ食えんの羨ましいな。おい、隆司も食ってたかぁ?」

「うん」

私が興味なさそうに答えるとそれが不服だったのか、父のヒラメ談義が加速する。

「ヒラメはさ、昆布締めもうまいんだよ。昆布の表面をさ、日本酒で湿らせんだよ。なんでかわかる?」

「いや」

「日本酒はさ、昆布の旨味を引き出してさ、刺身の臭みを抑えてくれんの。そんで、その昆布にヒラメ挟んで寝かせるだけ。それがおいしいのなんのって。これなら一貫300円だな」

「いや、手間がかかっているから350円」

私と父の会話にまたしても兄が茶々を入れる。

「うける、また言ってる」

姉が喜んでいる横で、突然、母がむせ返った。

「ゲホッ、カッガァー」

一同騒然となり、にわかに緊張感が走る。

「おかぁどうした? 大丈夫?」

「気をつけてゆっくり食べろぉ! 骨引っかかったんだべ。ご飯飲めぇ! 隆司、水持ってきてやれ!」

私が持ってきたコップを姉がゆっくりと母に飲ませる。

「ゆっくり、落ち着いて、水飲んで」

「はぁ、大丈夫、取れた」

「良かったぁ」

「おかぁは、昔っからよく喉に骨刺さんだよなぁ。一回ピンセットさして取ってやったこともあったっけな」

「喉に骨刺さるって。大人であんまり刺さんないよね」

突拍子もない事態に、私はなんだかおかしくなって笑っていると、「それが、おかぁだ」と父も笑顔でそう叫んだ。しかし本人はそんなことを気にする様子もなく、残っていたヒラメの唐揚げを懲りずにまた食べていた。「やっぱりおいしい」そう言いながら微笑む母に、「それが、おかぁだ」と、父が繰り返して家族の笑いを誘った。

家族の夕食は、こんな感じで父の話と母の天然でいつも笑いで包まれるのだ。そんな岩間家と好寿司に襲いかかった回転寿司ブーム。これまでは敷居が高く、特別なときに食べる寿司が気軽に食べられるようになったのは、間違いなくこのブームがきっかけだろう。