華麗なる変身!?

私は子どものころ、父からおもちゃを買ってもらったことがない。正確に言うと私が欲しいというものを父は買って与えるのではなく、何でもつくってくれたのだ。

「乗れる車のおもちゃが欲しい」

友だちが持っていた足で蹴って進む車のおもちゃを見て父にオーダーした。

「わかった。じゃ手伝え」

岩間家には、普通はたぶんゴミだろうというものでもいつか使えるだろうと捨てずに置いているものがたくさんある。

「裏から木の端切れと段ボール。それと壊れた台車持ってきてみな」と父は自分の工具箱を広げて、私が持ってきた段ボールをザクザクと切り始めた。

「ここは座れるように段ボール厚めに重ねたほうが良いな」

自分と会話しているように、父はボソボソと話をしながらつくり進めていく。

「台車のタイヤ2つしかねぇからバイクの形にしていいか?」

「別にいいよ、乗れれば」

車が欲しかったというよりは、蹴って進む乗り物が欲しかった私にはどちらでもよかった。

「段ボールって座ったら壊れそうだね」

疑いかけた私の言葉に父は、「もちろん一枚じゃ座ったら壊れる。何枚か重ねることで壊れないものをつくるんだ。なんだってそうだよ、一人でできないことでも二人ならできることも増える、三人ならもっと増えるだろ。それと一緒だよ。お前たち三人と一緒だよ」そう言ってできた車輪付きの乗り物に私を乗せて、「ほら、完璧だ」タバコを吸いながら父は笑って言った。

父がつくるおもちゃのオーダーメイドに味を占めた私は、たびたびそれをせがんだ。

「刀が欲しい」

「じゃ河原で好きな木の棒拾ってこい」

私が拾ってきた木の棒を渡すと、アウトドア用のナイフを使って、父は器用にその木を削っていく。

「ここは持ち手になるとこだから握りやすくするためにわざと少し凹ませるんだよ」

河原で拾ってきたただの木の棒が、みるみるうちに刀の形に変わっていく。

「どうだ。一回持ってみろ」

「うん!」

手づくりの木刀を渡された私は、嬉しくてその場でブンブンと振って見せた。

「おおっ。まぁ長さも良さそうだな。ただし、人が居るところで使っちゃダメだぞ。広いところで……そうだな、河原行って思いっきり振ってみな、スカッとするぞ」

そう言って父から渡された木刀は、私の手にしっくりと合った大きさだった。持ち手は拾ってきたままの形状を活かした個性的なデザインで、先端は細いがやさしく丸みがあり、自分にあたっても痛くないようになっていて、父の優しさと男心をくすぐるつくりに、子どもながら父のオーダーメイド能力の高さに驚かされた。

父は自分の道具をたくさん持っていて器用になんでもつくった。つくるものには独特のアイディアが組み込まれていて、サプライズさせるのも父のものづくりの真髄だった。