江戸と東京が出会う日比谷濠端ほりばたの変貌

先に桜田濠のパノラマをお濠の中で一番美しいと褒めたノエル・ヌエットは、その著「東京のシルエット」で日比谷濠も美しいと次のように描写しています。

「このほかにも私の好む場所がある。日比谷交叉点付近である。そこには広い水面があり、丸ノ内の多くのビルディングの影をうつしている。皇居の方には、黒ずんだ石垣の中から生えて、濠の上に枝を伸ばしている著しく古い松の木がまだ何本か残っている。それは反対側の近代的な建物とコントラストをなしている。夜になると、別の美しい眺めがここに生れる。水面の光の尾、いくらか風のあるときに光りの錐揉みを描く光の尾がそれである」

日比谷濠に沿って、大手門交差点から日比谷交差点までの間に日比谷通りが通っていますが、ノエル・ヌエットが指摘したように、日比谷通りのこの辺りは、江戸の遺跡と近代建築が直接向き合っている東京で唯一の場所です。

幸いにも江戸城が皇居となって残ったお陰で、江戸に向き合う近代建築の街並みを眺める事ができたのです。

ノエル・ヌエットが立ち止まって眺めたであろう日比谷交差点から見た日比谷濠の風景は広々として美しく、街路樹の銀杏と柳が濠の水面に映え、その後ろには近代都市の西欧式ビルが建ち並んでいました。

しかし、平成時代になって、西洋風の中層ビルの街並みだった日比谷通りは、超高層ビルの街並みに変貌し、日比谷濠を覆い被さるように聳え、皇居に立ちはだかる巨大な屏風のようです。

この風景をノエル・ヌエットが眺めたら美しいと褒めるでしょうか。