覚悟する

乳ガンを助かった私は、Mさんに感謝し、お礼を言いに、お見舞いに行きました。

すると、Mさんは、やせ細った体を起こし

「ダメよ! 安心しちゃダメ! もっと調べて! あなたは、まだ、ガンがあるわよ!」

と、強い口調で言われました。私はびっくりして、何も言えませんでした。その帰り、乳ガンの入院中に、看護師さんに言われた事を思い返しました。

「高見さんみたいに、若くて乳ガンになる人は、子宮ガンになる確率も高いんですよ。それも、普通の検査でわかる子宮頸ガンじゃなくて、先生に言って検査してもらう子宮体ガンになる事が多いんです」

(まさか……)

そう思いましたが、スッキリせず、私は初めて、婦人科を受診しました。もの凄く痛い検査で、私は、恥ずかしさと痛さとで、酷くショックを受けました。

結果を聞きに行くと、子宮体ガンの早期だから、子宮を全摘出する手術をしましょうと言われました。私は愕然としました。またしても、心が事態についていけませんでした。私が手術をしぶると、先生は、とりあえず、定期的に検査を続けましょうと言われました。

私は、この拷問のような検査を続けるなんて嫌だ! と思いました。そして、もう絶対、婦人科へは行かない! と、心に決めました。心療内科のカウンセリングの先生は言われました。

「あなた。ガンですよ」

「わかっています。死ぬ覚悟はできています」

先生は黙られました。家でも、家族が反対し、命が大事だから手術を受けるようにと言いました。私だって、命が大事な事はわかっていました。ですが、「産まない」女ではなく、「産めない」女になってしまう事が、どうしても受け止められませんでした。

私は、貯金をおろし、家を出ました。初めて、マンションで一人暮らしをしました。一人になる必要がありました。テレビも置かず、新聞もとりませんでした。

本やネットで、体の事を調べ、人間の体には、細胞が約六〇兆個あって、古い細胞から、新しい細胞へ、常に入れ替わっていて、三年すれば、皮膚や筋肉や臓器や骨までの、全ての細胞が入れ替わると知りました。

ガンのメカニズムが、まだ解明されていない事も知り、それなら、三年後に、今あるガンが消える可能性もあるのではないか?と、思いました。とは言え、お医者さんが切れと言うものを、切らずに放って置くのは、気持ちのいい事ではありません。やっぱり、ガンが進行して、死ぬかもしれない。

普通の人なら、きっと先生の言われた通りにするだろう。でも、私は、まだ四十になったばかりで、男性経験もないまま、子宮を失う事を、心が拒絶しました。そこまでして、生きたいのか?と、自分に問い続けました。

考えたら、八歳で死んでいたかもしれませんでした。その後、弱い体にむち打って、信じられないほど、きつい仕事をこなしてきました。

人一倍、頑張った。充分に生きた。命が惜しくて、今、手術を受け、子宮を失ったら、私の心が死んでしまう。それでは、生きているとは言えない。

私はこれまで、自分の意志を持って生きてきました。死も、自分の意志を持って、受け入れよう。死ぬ、その日まで、自分の意志を尊重して、生きぬこう。そう覚悟しました。