ずっと君を探していた
ある日の午後でした。ひとりの若者が、汗を流しながら、岩山をのぼってきました。わたしは、人間をこんなに近くで見たのは初めてでした。それで、わたしは驚いて彼を見つめました。若者もまた、わたしを見るなり、驚きの声をあげました。そして、わたしを食い入るように見つめました。美しい目でした。その目にも、全身にも喜びがあふれていました。
わたしはなぜかチャップの目を思い出していました。チャップは最後に悲しげな目でわたしを長いこと見つめました。しかし、この見知らぬ若者は今、輝くような喜びをあらわしてわたしを見つめていました。そして、言いました。
「君をずっと探していた」
わたしは耳を疑いました。
「わたしをずっと探していた? いったい、それはどういうことなのだろう?」
若者は、宮廷で琴を弾く楽士でした。これまで美しい音色の琴を捜して歩き続けてきました。以前彼は宮廷の古老から、遠い昔に宮廷にあったという非常に美しい音色の琴の話を聞きました。風の吹き荒ぶ岩山で何百年も行きぬいた桐の木からつくられたものだといいます。その音色はまさに聞く人の心を強く揺さぶり離さなかったと言います。
若者はそのような琴を自分も手に入れてみたいものだと思いました。しかしそれはかなわないことでした。なぜならその琴は宮廷でおきた火事のときに焼失し、今はもうなかったからです。それで楽士は古い桐の木を探すことを思い立ちました。それを探し当てたら、そこから琴を作ることができると考えたのです。長い放浪の末に、楽士はこの岩山にたどり着きました。