第二章 妻へ 3

「俺が死んだら、俺の財産は誰にいくのか分かるか?」

事務所の椅子に座るなり、高坂は男に質問した。

「専門ではないので、弁護士に相談した方がよいかと」

「子どもがいなければ、妻にだけか?」

男の言葉を無視するように、高坂は続けた。

「たしか、子どもがいなければ親にも、親もいなければ兄弟にもいくはずです」

「兄貴がいたけど、死んでる場合は?」

「お兄様にお子さんはいらっしゃいますか?」

「息子と娘がいるよ」

「それでは、奥様とともに、その甥の方と姪の方にもいくはずです」

「そうなのか」

「専門家に相談した方がいいですよ」

「妻だけにいく方法は?」

高坂は再び男の言葉を無視した。

「奥様だけに相続させる内容の遺言書を作ればよろしいかと。たしか、兄弟には遺留分がないはずですので」

「イリュウブン?」

「遺言書は、自分で作るか、公証人役場に行けば作れますよ」

今度は男が高坂を無視した。

「あんた、作れる?」

「ですので、自分でお作りになるか、公証人役場で作ってもらうことになります」

「自分じゃ作れないから、頼むしかねえな」

「公証人役場なら、駅の反対側にございます」

男は部屋の奥から持ってきた紙をテーブルの上に置いて、そこに駅の反対側の簡単な地図を書き、さらに建物を表す四角のところから線を引っ張り、銀行名とともに「5F」と記載した。

「この銀行のある建物なら分かるよ」

と高坂が言うと、男は何かを思い出したかのように地図が書かれた紙を持って再び部屋の奥へ行くと、すぐに戻ってきた。

「電話番号も書いておきましたので、行かれるときは事前に電話をしてから行かれた方がよろしいかと」

高坂の表情が険しくなったので、男は、

「撮影を始めましょうか」

と言いながら立ち上がり、部屋の奥に高坂を案内した。