第二章 離婚
日曜日の午前十時、八歳と五歳の姉妹といっしょに駅の改札で立っていた。
「パパ」
妹の方が大声で叫んだ。男が歩いて向かってくる。二人がその男の足に抱きついたので、男の顔が笑顔になった。
「では、四時にまたここで」
「分かってるよ」
男は不機嫌な顔で返してきた。三十代の女性から離婚の依頼を受けて、家庭裁判所に調停を申し立てた。すでに別居しているので婚姻費用についても同時に申し立てた。相手方である夫は離婚自体を争い、さらに娘たちとの面会交流の調停を申し立ててきた。面会交流について依頼者は拒否していたが、調停委員が説得したこともあり、実現に向けて調整していくことになった。
「夫とは顔を合わせたくない」と言うので、毎月第二日曜日に、午前九時五十分に依頼者と駅で待ち合わせて娘二人を預かり、午前十時に父親に渡し、そして、午後四時に父親から預かり、午後四時十分に依頼者に渡した。
そのため、午前と午後の二回も駅に行かなくてはならなかった。
「安請け合いして」
古谷から怒られた。面会交流の実現を渋る依頼者に対して調停委員が「娘さんたちの受け渡しは、代理人の先生にやってもらうこともありますよ」と提案してしまい、「嫌ですよ」と依頼者の前で言えず、受けることになってしまった。
いつまでも続けるわけにはいかないので、「離婚が成立するまで」との条件はつけた。調停を申し立ててからすでに一年が経とうとしていた。依頼者は再婚の予定がないので「長引いてもかまいません」とのことだった。
離婚しなければ別居していても夫婦なので、長引けばその分だけ婚姻費用を請求できることになる。夫からの離婚請求に対して、離婚に応じる意思はあるのに婚姻費用をもらうがために最高裁まで長引かせた依頼者もいた。
「もう不成立でよろしいですか」
調停ではまとまる見込みがないと調停委員が判断したときの言葉だ。離婚事件の場合は原則として調停が終了して初めて訴訟を起こすことができる。
結局、訴訟となり、一審の家庭裁判所において離婚の和解ができた。訴訟を起こしてからだけでも十か月ほどが経っていた。