第二章 妻へ 4
「俺だけど」
高坂はいつものように不機嫌な表情をしていた。
「俺の家と金だけど、おまえだけのものになるように遺言書を作っておいた」
高坂はしばらく目を泳がせて、何かを思い出そうとしていたが、
「週に一回はおまえの作った煮物を供えてくれ。それだけでいい」
とだけ口にすると、目を閉じた。
「これまで苦労かけた……ありがとう……感謝してる……」
「ふじへ」と書いてある封筒を箪笥の引き出しの中に見つけ、高坂ふじは森蔵が外出しているのを確認し、中を見た。『公正証書遺言』と書いてある書類と、DVDが入っていた。
見終えたあとはしばらくそのままでいたが、玄関で音がしたので、急いで封筒に戻して、引き出しにしまった。
――かぼちゃは買ってあったかしら――
ふじは、冷蔵庫の野菜室を確認した。