著作権の定義
著作権は生存する限り制作者の元にあるが、死後70年経過するとその効力が消失することはあまり知られていない事実だ。
しかし、音楽市場には邦楽の英語カヴァーや、歌唱力の高い歌い手によるセレクション・アルバムといった商品が出回っている。
勿論、無料で勝手にできる芸当ではないが、割と気軽に企画が通っているようなので著作権の重みは大したこと無いのか?と、疑問符を投げ掛けたくなる心境だ。
敬子は歌う。
「私たちはまだまだ、マイノリティ。地元じゃ名が通っているといわれても野心はそんなものじゃ抑えつけられない! 海堂くんのこの企画に関わる全員が飛躍するような完成度、それを目標に遂行していきたい」
四つ葉館に奈津子が訪れたことも知らず、遠く離れた土地で青春謳歌する海堂。
再びあの扉を開くとき、彼は成功を握り締めているだろうか?
魔法のチケット
その日、升水家の朝は慌しかった。
「ねっ、ねーちゃんっ! Holidayに星巡波のポスターがあるよ!」
「はぁ? 誰よ、セイジュンハって。侑司、食器洗ってから学校行きなさいよ」
侑司の姉、優美は、弟が何に興奮しているのかがよくわからなかったが情報紙にもう1枚折り込んであったポスターを手に取り、思わず息を呑んだ。
しばらくポスターに見惚れ、何気なく裏返すと、何やら説明書きが。
「県内のJKのみなさん、こんにちは。あなたのとっておきの1枚を応募して雑誌に掲載されるチャンスをつかみませんか? 下記の住所を訪ねてくれると、たくさんの衣装と、腕利きのカメラマンがあなたの最っ高の笑顔を激写します。撮影したフィルムはポスターに大変身! ポスターは30枚からあなたが希望する部数までわたしたちが印刷することをお約束します」
「腕利きの、カメラマン、か……。ねぇ、侑司。このポスター、しばらくお姉ちゃんに貸してくれない? 食器、洗ってあげるから」
「返してくれるんならいいよ。直筆のサイン入りだぜ? 宝物にするんだから丁寧に扱えよな」
優美……升水優美【ますみずゆうみ】は、魔法のチケットを手に入れた心地だった。
印刷はおそらく有料だろうが、雑誌に載らなくても腕利きのカメラマンが撮影したら自分のことが好きになれるような、とっておきの1枚が手に入るかもしれない。
学校に行ったら、例のポスターのことが、早速話題に。男子にとって、被写体のあの2人は芸能人並みの存在感らしく県内に在住してることも割と常識だと聞かされた。
自分で言うことのほどでもないが学園祭のミスコンで選出経験のある私。
それでも、自分の顔はコンプレックスがいくつかあって素直に好きだ、と言えないのが現状。あ、嫌味に聞こえたらごめんなさい……。
客観的に言えば、器量よしの私。思い出作り的な感想を抱いたばかりだが、雑誌掲載を狙いにいくのもあり……かな?
ポスターが1部100円だとしたら、30部で3,000円、か。
EXILEの新譜を我慢してレンタルになるのを待ったら、それくらいのお金は準備できるかも?
欲しい物を天秤にかけたら、どちらかを妥協しなければならないのは当然のことだろう。
週末になったら、ポスターに書かれた住所、訪ねてみようかな。
衣装も豊富に用意されてるって説明書きにもあった。私は単なる思い出作り……でも、他の女の子たちは本気で雑誌掲載を狙い、そこから芸能界への切符を掴んでやろう!とか思っているのかな?
芸能界……か、まったく視野にない進路だけど、なれるんだったら悪くない。
窓ガラスに映る自分の顔を見て「ニッ!」と、口角を上げてみた、わくわくそわそわな午後の授業風景。