もっとも、認知症の人が皆同じ行動をするわけではありません。人によっては暴力を振ったり、失禁・不潔行為をしたりします。別の人ではこれらの症状がなく、不安が強くて積極的に行動せず、家の中にこもっていたり、たまに外へ出ると徘徊して家に帰れなかったりします。

何かをきっかけにして行動・心理症状が現れたり、悪化したりします。起こったことについていけない、新しい生活パターンに馴染めない、心の支えを失ってしまった、周囲から受け入れられないことが基礎にあるようです。近頃「心が折れる」と言いますが、自分を受け入れてもらえない現実に直面するからで、認知症の行動・心理症状が現れる原因となります。

行動・心理症状は介護に負担をかけ、認知症の人の生活の質を低下させるだけでなく、家族などの生活にも影響します。行動・心理症状は脳血管障害、感染症、脱水、便秘などにより悪化しますので、かかりつけ医と相談して下さい。

行動・心理症状のある人には薬以外の対応を試みて下さい。薬としてリスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの非定型抗精神薬が使われますが、パーキンソン病に似た副作用などが現れることも多いからです。

ここまで、認知症の人に見られる異常について述べてきました。

「いつも改訂長谷川式簡易知能評価スケールや脳のMRI画像で診断してもらっているのに」と認知症の人に現れる異常と診断の仕方の違いを不審に思われる方も多いと思われます。

けれども、認知症はあくまでも「いくつかの異常=症状の重なり」として診断されるものです。

一方、改訂長谷川式簡易知能評価スケールや脳のMRI画像は認知症を起こす病気がどのようなもので、どの程度重症かを知るために利用するものです。

すなわち、認知症はいろいろな病気で起こり、その程度もピンからキリまで様々なものがあるということなのです。