飯田橋から市ヶ谷に続く外堀の土手には、桜が満開だった。
「そうね。お花見しながら散歩しましょう」
弓子とさとるは、飯田橋から市ヶ谷方面に向かって、外堀の土手を、会話しながらゆっくり歩いた。
「すごい人出ね。みんな桜が好きなのね」
「僕は、この土手は、桜の季節も好きだけど、誰もいない冬の季節も好きなんです」
「冬の季節が、好きなの?」
「はい。僕、十二月生まれで、冬が四季の中で一番好きなんです」
「あら。十二月生まれなの? 私もよ」
「何日生まれですか?」
「十二月二十四日。クリスマスイブよ」
「わあ。奇偶だなあ。僕は十二月二十五日。クリスマス当日です」
「まあ。こんなことってあるのね」
「じゃあ、いつも誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは同時で一つだけでしたか?」
「ええ、そうよ。あなたも?」
「はい。一つだけ。でも、いつも自分の欲しいと思うものをプレゼントしてもらっていました」
「私もよ。私達ラッキーね」
弓子がそう言うと、二人でクスクス笑った。弓子は、さとるのことを素直でかわいらしいなと思った。及川のことを考える時、気分が暗く重くなるのに比べて、さとると会話している時は、気分が明るく軽くなるのを感じた。
弓子は、さとると一緒にいると心が満ち足りて、生きていることの喜びを感じられる自分がいることに気がついた。