すこしばかりの金品をつけて置いてゆかれる子を、ぽち(心づけ)と呼んでいた。そういう子はどこの村にもいて、ほかの子とおなじように育てられた。中には一代で財をなし、村の有力者になるようなぽちっ子もいた。
そういった才がよそからころがりこんで来るのも、村にとってはいいことだった。チビは、マワーラんちのぽちっ子だ。
「いいわね、ミラン。袖を通したら荒っぽいことはダメよ」
「衣装は仮面、でしょ。ちゃんと踊り子になります」
「はい、じゃあ変身しましょ」
広げてくれた服に黄色の紐かざりが縫いつけてあるのを見て、あたしは母さんに抱きついた。以前、村に来た遊楽団の衣装についていた紐かざりをうらやましがっていたのを、おぼえていてくれたのだ。
「あたしねえ、一生踊り子やりたい。できるかな?」
着替えを手伝ってもらいながら、外の景色に目をやった。どこの家でも、ブドウ棚の下に縁台がある。秋の午後なんかには、みんなここにあつまって来る。だれかがドタールを弾きはじめて、干し瓜やナッツをほおばりながら夜までおしゃべりをする。裏口には土レンガと燃料にするフンが積んであって、我が家と村の畑を分ける水流が横切っている。
「ひと稼ぎしてくる」
と言って出て行った父さんが、どこかの砂に埋もれちゃってからは、母さんと二人、ここで暮らしてきた。
「母さん、あたしね、山の向こうが見てみたい。小人の谷や、一年中びしょぬれの国や、あとね、あと」
「あんたが一人でよかったわ。テングリさんを越えて行こうなんて娘が何人もいたら、あたしは心配のキリがない」