桔梗が呼ばれる夜、フジオカはあらかじめエレベータホールの天井に潜んでいた。ちなみにフジオカは、戦艦を自分一人の力で岸に引っ張り上げられるほどのけた外れの怪力だった。
外田は、人目に付きたくないため、エレベータのすぐ近くの部屋で桔梗を心待ちにしている。やがてドアがノックされ、桔梗が外田の手下の男に連れてこられた。
「ほう、ほう。噂に違わぬ美人じゃのう。さあちこう寄れ」
「やだっ、恥ずかしい」
「嫌がるところがまたいいのじゃ」
「……せめて、シャワー浴びさせて下さい」
シャワーを浴びた桔梗を、醜悪な全裸の外田が待ち構えている。外田の目がバスタオルに隠された桔梗の裸身に釘付けになった、その時だった。
ストッ!と鋭い音がして、桔梗がバスタオルの下に隠し持っていた四本の毒針が、正確に外田の経絡秘孔をついた。
「ぐへあっ???」
毒針の先には、ロシアのスパイがよく使う、エイの針から取った神経を痺れさせる即効性の毒が塗られていた。外田は何が起こったか全くわからず、そのまま真後ろにもんどりうって倒れた。
「ハインリヒ! 今よ!」
桔梗は近くの扉を強く三回叩いてフジオカにサインを送った。
「うおおおおおおりゃああああ!」
エレベータ側の壁を突き破ってエレベータの本体部分が現れ、外田の体を押しつぶしていった。
「ぐわっはああああ……」
「さあ、息のあるうちに仕上げだ」
フジオカは外田の短い首に腕を掛けて、ゆっくりと捻り上げていく。
「萩原健一郎と檀かおりの、怨み・ハラスメント」
外田は首の骨を折られて息絶えた。
「復讐完了! さあ撤退だ」
フジオカは桔梗を抱え、ホテルの窓をぶち破り、そのまま二〇メートル向かいのビルの屋上に飛び降りる。次々とビルを軽業師のように飛び移り、夜の闇の中に消えて行く。
裸身のままフジオカの逞しい腕に抱かれた桔梗の顔に夜風があたり、桔梗は頬を赤らめていた。
「お嬢様、ミッション完了です」
「おお、ご苦労。さっき山田くんのところにも檀かおりちゃんから感謝のメールが来てたわ」
「……しかしお嬢様、ただ人の私怨を晴らすために我々が動くというのは、どうかと」
「はあん? いやいや、ちゃんと報酬はもらったけど」
「えっ? どこからですか」
「あんね、外田はかねてから裏の組織との黒い噂があっただろ。今回の件で大騒ぎになりすぎて、マスコミにその関係をかぎつけられそうになって、外田が邪魔になったんだな。それで我が『怨み・ハラスメント』が邪魔者の始末を請け負ったってこと」
フジオカはあっけにとられた。
「……お嬢様。あぶない組織との付き合いはほどほどになさった方が」
「え? あ、あそこはヘーキヘーキ。うちの親戚の古くからのお得意様だから」
フジオカは須戸麗花お嬢の闇の面を知り、身震いを覚えた。