白黒つける必要なし
相手が敵か味方かを見分ける本能が、「相性の良し悪し」「気が合う合わない」「好き嫌い」といった感情をもたらすことは、すでに述べてきました。
この感情は、人間が動物として生きていく上で、欠かせない能力でもあります。その中で、生き延びるための術を見出していかなくてはなりません。
ところで、「相性の良し悪し」「気が合う合わない」「好き嫌い」は、よく見るとどれも「二者択一の構造」となっていることに気づきます。動物の世界であれば、仕方がないのかもしれませんが、人間が営む環境は、それほど単純ではありません。
何か、効果的な対処方法はないのでしょうか?
人間は、自分の感情をコントロールすることができます。感情をコントロールしながら、進化を遂げてきたといっても過言ではありません。
せっかくですから、私たちも自分の中に備わっている、「人間ならではの能力」を使わない手はないでしょう。
以下は、精神科医である、和田秀樹氏の著書からの抜粋です。
「つまり人間というのは、未成熟なあいだは白か黒かをはっきりさせたほうが便利なのです。楽だとか、生きやすいといってもいいでしょう。けれどもだんだん成長して認知的にも成熟してくると、白か黒かだけでなく、その中間もあるのだとわかってきます。毒だって少量なら薬になるとわかれば、白か黒かという区分は極端すぎるということもわかるのです。これは『グレーゾーンを認める』ということです」(『感情的にならない本』和田秀樹著、新講社ワイド新書、93頁)
話は続きます。
「たとえばある植物を見て、『これは毒にもなるし薬にもなる』と理解することです。人間に対しても同じで、『敵か味方か』という区分ではなく、『敵でも味方でもない』と受け止めることです。『どっちとは断言できない』とわかってくるのです」(前掲書、94頁)
世の中には、いろいろな考え方や、性格の人がいます。
会社の中も同じです。「すべてにおいて同じ意見」という社員は、おそらくいないのではないでしょうか(それが個性といってしまえば、それまでですが)。
しかし、方針がバラバラでは企業は成り立ちません。会社は、目的を果たすために、様々な組織をつくります。そのうえで、組織がうまく回るよう、指揮命令系統が整備されます。
少し大げさに聞こえますが、役職や階層があるのはそのためです。
この環境の中で、「たまたま出くわしたのが、相性の悪い上司(もしくは相性の良い上司)」と考えれば、今までと違う見方ができるかもしれません。