でも覚えていてくれて、少しだけど嬉しかった。それから何人か、共通事項になりそうな名前を出し合ったが、接点以上には至らなかった。
「ごめんよ。閉店間際だったね」
「いえ、全然、かまわないです」
「ここ、牧森さんがひとりで任されてるの?」
「はい。というか、一応、わたしの家ですから」
「そうなんだ。ごめん、失礼なこと言って」
「全然気にしないです」
「……いい店だよね」
園井はぐるっと顔を巡らせた。
「慌てて言ってくれなくても大丈夫ですよ」
私はくすっと笑って答えた。
「いや、そういうんじゃなくて……本当にいい雰囲気だって」
「ありがとうございます。……園井さんも、スーツよく似合ってますよ」
お……今、自然に褒め言葉が出てきたじゃん。こういうのって、やっぱり相手によるのかな。とりあえずは小さな成長だ。
そうかなあ、と照れた園井は、ぬるくなった珈琲に気付いて手を伸ばし、口をつけると一気に飲み込んだ。
「ごちそうさま」
閉店時間が過ぎていることを思い出した園井は、上着の内ポケットから財布を取りだしながら立ち上がった。
「あ、ありがとうございます」
また高校の話に戻るのかと思っていた私は、いきなり会話が終了になる準備ができていなかった。
「……また、来てもいい?」
「もちろんです」
私は営業笑いではなく、高校時代によく笑っていた顔になって見送っていた。