1 物語の始まり

人は出会いを繰り返し、やがて最も大切な人の前に立つ。

運命の相手とは、いつかは必ず巡り合える人のことだ。今はまだ近くにいなくても、また近くにいるのに機が熟してないとしても、その時は必ず訪れる。

偶然でも環境の変化でもいい。その人の存在の大きさに気づいたなら、切なく揺れる心は、手を伸ばすことの重要さと少しの勇気が必要なことを悟るはずだ。その時は誰にも訪れる。今まで報われることの少なかったアドニアの場合もしかりで、彼女にも遅まきながらその時が近づいていた。

2 ノースクロス王国

季節は今日から十二月になった。この月の後半には運命を動かす力を持つ日が控えており、その日を迎える準備を逆算して一年を過ごすサンタクロースたちの国が空の上にある。彼らの献身的な労力により、願いを求める人にはそれなりの結果が届けられてきた。

あと数週間もすれば王宮に続く大通りは出航許可を求めるサンタクロースで溢れ、普段は我が物顔で昼寝を決め込んでいる猫や犬たちも路地に移動する。それはここノースクロス王国での、クリスマスを控えた風物詩でもあるのだ。

積み重ねた経験から、今はまだまどろめることがわかっている年老いた茶トラ猫のバルは、薄茶色の煉瓦が敷き詰められた大通りの中央で、揃えた前足を横に伸ばして寝そべっていた。天気は穏やかで行き交う人も少ない。ここを縄張りとして暮らす彼は、心地よい朝の空気に身をゆだねている最中で、顔の側面を地面につけたまま欠伸をしている。

その警戒心のない顔のすぐ横を誰かが急ぎ足で通り過ぎた。この短い間隔でヒールが煉瓦を打つ音は、あまり聞いたことないな。バルは面倒くさそうに頭をもたげた。目に映ったのが馴染み深いアドニアの後ろ姿だったので、なぜ彼女が急いでいるのかを詮索することもせず、更に大きな欠伸で見送って煉瓦に染み入るように横顔を戻して目を閉じた。