二宮啓子は泣いて僕にしがみついて来ました。こんな体になってしまって悲しい、死んでしまいたい、本当に死んでしまいたい、と、よく言っておりました。傷ついた過去を持っているけれども、二人は愛を信じあっていました。

ところが、あの日、あのアパートで男女の行為を終えた時、

『稔、稔なんてサイテーよ! サイテーよ。だからお金を払いなさい!』

と啓子が吐き出すような声をあげてカネを請求してきたんです。僕は、信じていたものがガラガラと音を立てて崩れて行くのを覚えました。

その時に、例によって煙草を噛んだのだと思います。僕の心は、ひたすら愛を求めていたのです。にもかかわらず、啓子があのような態度をとったので、彼女をとても憎らしく思いました。

『サイテーだわ、稔。お金を出しなさい!』

憎悪の眼差しで声を上げる啓子を、僕は、悪魔みたいな女だと思いました。気がついた時には、僕は彼女の首に電気スタンドのコードを巻き付けて締めていたのです。

でも、啓子は、やっぱり美しい女でした。彼女は首にコードを巻きつけられても、少しも抵抗しませんでした。

『稔! これでいいのよ! 稔の手で……』

啓子は力尽きる時、ちょっと微笑みながら、消え入りそうな声で僕に向かって言った」

稔は、そのように罪を自白してから、瞼を閉じて、合掌した。