京都の柿

友人も住んでいながら、京都は通い慣れた街ではありませんでした。

別に嫌いというわけではなく、どちらかといえば好きに違いなく、例えば外国人に紹介するとしたならば真っ先に薦めたい日本を代表する街だと思っています。

とはいえ「そうだ……」と思いつく以前に、特に経済面を考慮せねばならず、仮にでかけたとして、登山のついでに立ち寄ることが主でした。

中学・高校の修学旅行で訪れて以降、私が京都にきちんと対峙した機会はほとんどないに等しいのです。

2009年の暮れ、長男が入籍するに至りました。式は翌年の秋に海外で執り行なうという段取りで、それではとりあえず親同士顔合わせをしようかということになりました。

相手のお嬢さんが大阪の方だったので、「どうせなら京都で夕飯でも」ということで、私が以前利用したことのある湯豆腐の店を予約しました。

会食の予定は、夕刻です。妻も修学旅行以後京都とは縁遠かったので、この際京都観光ももうひとつのメインに据えてしまおうと目論みました。

勿論妻も乗り気で、行った日は夫婦で、翌日には息子夫婦と4人で市内を巡るおおよその計画を立てました。仏野念仏寺あだしのねんぶつじは是非訪れたかった寺だったし、天龍寺、南禅寺、東福寺などを巡り、新顔の『娘』をも伴っての楽しく、想い出深い旅になりました。

(いずれ孫でもできれば……)その時にはその手を引いてまた京都を歩きたい、そう思わずにはいられません。初日、祇王ぎおう寺から嵐山へと歩く道すがら、冬の陽を浴びた明るく広々とした畑に不意に出くわします。

その傍らには和服を召した女性の姿もあり、タイム・スリップしたかのような奇妙な気分にもさせられましたが、そこに建っていたのが落柿らくし舎でした。

1月も末だというのに沢山の柿が残り、枝が折れそうに重たげで、そこにメジロが多数たかっています。もう20年にもなるでしょうか、私には忘れ得ない京都の想い出があります。