十キロ以上その状態が続き群馬県に入った。殆どが急な下りのカーブで右側は赤あか谷や湖に転げ落ちる谷で路面からは百メートル近くある崖であった。少しずつ恐怖心が増していったが、どうしても決着がつけたく左のカーブでセンターラインを越えて路肩ぎりぎりでその車を越した。
瞬間この時点で対向車が来たとしたらどうなるのか心が震えた。それでも相手の車もかなり本気になっている様子が車の走り方で分かったので、アクセルを踏みながら右車線をどうにでもなれとハンドルを切った。
谷底が視界に入ると恐怖心は極限にまで達した。
「……勝った」
と呟き、狭い空き地に車を停めた。吐く息の速さとともに恐ろしさが込み上げ、どうしていつもこんなことをするのだろうと己の愚かさをまた感じてしまった。
少し時間が経って冷静になると、再びこの道を聡子とドライブできなかった悔しさが湧き出る思いであった。