母親の声が電話越しに霞んで聞こえた。一生の不覚とも思えた。結局一人で八箇峠はっかとうげを越え、六日町から群馬へ向かった。湯沢を過ぎると道路は右に大きくカーブし、山合いの峠を越えながら苗場のスキー場を右に見て、暗くて狭い県境のトンネルを越え猿ケ京へ通じる国道十七号線である。

聡子と二人で思い切り楽しみ、話しながら進むべきはずの越後路が一人旅であった。彼女に対する申し訳なさと、約束を破った自分に腹が立ってならなかった。

一台の白のビュイックが音もなく追い越していった。しばらくその車の後ろでいじけたようにハンドルを握っていた。自分の車とは比較にならない大きさでしかもどっしりとした車体が滑るように路面を駆け抜けていった。

急にその車の前に出たい衝動にかられた。アクセルを思い切り踏み加速すると、なんとか涼しそうに走る車体の横につけ、さらに踏み込むと前に出ることができた。

フェンダーミラーを覗くと少しずつ白い車体は小さく姿を変えた。だが二分も経たないうちに音もなく同じ車に越されてしまった。

「面白い。やってやろうじゃないの」

独り言を言って、再びアクセルを吹かした。目一杯速度を上げまた越した。左ハンドルで座席に座る中年の男は無視するように平然と前方を見ていた。

車幅が広いことがすぐに分かり、圧倒的な余裕を感じさせられた。二回三回と越して越されているうちに、直線と登り坂ではどうしても越すことができず、下りのカーブを利用して越すという無謀なひらめきしか頭に浮かばなかった。