別れとリハビリテーション
三年後聡子は卒業し、都内の銀行へ勤めた。
彼女が最初に休みのとれた日曜日、渋谷で待ち合わせた。昼飯を食べてから二人で話し合った結果、映画を観ることになった。
デパートにかけてある大きな看板を見て
「私、あれが観たかったんです」
『猿の惑星』という看板だった。
「えー、俺は気が進まんなー。最近話題になっている『卒業』が観たいんだけど。じゃんけんで決める?」
「『卒業』でいいです」
すぐに答えてくれた。中に入ると既に始まっていて、最初からの内容が分からなかった。若い恋人同士の生活を描いていたが、恋人の母親と青年が深い関係になって、その後一度別れるが最後に結婚式を行っている恋人を連れ出す様子が映し出されていた。
気に入ったのは既に知っていた挿入歌の『サウンド・オブ・サイレンス』の曲を聴いたときであったが、彼女のところへ車で会いに行く途中大きな橋を渡るときに流れていた『スカボロー・フェア』も心に残った。
高校を卒業して都内に小さなアパートを借りていたが、合宿所で寮生活を送っている自分にとって門限もあり、会うことは多くなかった。
六月の日曜日、午後から街をぶらついて食事をした後、アパートまで送って行った。既に薄暗くなっていたが、自分の部屋には帰りたがらなかった。
何も言わずに下を向いたり、近くの建物を見たりしていたが「まだ帰りたくない」小さい声で下を向きながらポツンと言った。どうしたらいいか考えがまとまらなかった。
聡子の顔を見つめて、「だけどなー」と言いかけて少し笑っていた。にやけた笑いのようでもあった。