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不具合
僕の作る作品に未来の要素を加えたら、一体どんな作品が出来上がるのだろう。
「ねぇ健ちゃん。今まで好きになった子の顔って全員思い出せる?」
「は? 全員? そりゃ、印象の強い奴とか長く片思いしてた人は思い出せるけど、幼稚園とか小学校低学年はさすがに思い出せねぇよ」
「そうだよね」
普通の人はそうだ。でも僕は、全部覚えている。今まで恋はしたことないけど、会ったことのある女の子全員を覚えている。
友達と呼べるほど友達じゃなかった人の家族だって一度会ったら忘れないけど、城間さんの顔だけは三週間で思い出せなくなった。むしろ覚えてもいなかった。あのウィスパーの声だけが頼りだった。
どうして彼女の記憶だけが曖昧なのだろう。もう好きになっていたのに。なんでだ。
「なぁ、本当にどうしたんだよ」
「うん。ちょっと、不具合が出て」
「不具合?」
そう言うしかなかった。それ以外の何物でもなかった。
「前に言ったろ? 僕は生まれた時からの記憶が全部あるって」
「あぁ、はじめは半信半疑だったし、トリックかなんか使ってると思ってたけど、今は信じてるよ。俺の家族構成、血液型、身長、年齢、趣味も全部一回言っただけで覚えたのはお前が初めてだったし、一ヶ月経っても普通にすらすら回答したのもスゲェと思った。優との思い出はクイズ感覚で面白いからなるべくメモをとるようにしてるし」
健ちゃんは缶コーヒーを少し飲み、呆然と目の前のプラタナスの木を眺める僕の肩に手を乗せた。慰め? それとも気を張り詰めるなってことかな。どっちでもいい。健ちゃんにならこの不具合を話してもいいと思った。
それに、健ちゃんくらいしか信じてくれないだろうとも思った。
「あのね、城間さんに僕、一目惚れをしたんだと思う。毎日彼女のことばっかり考えてた。だから、僕なら全部出会った時の顔とか服装とか全部覚えてるはずなのに、声も会話もちゃんと記憶してたのに、依頼された作品のことばかり考えてたからかな、さっき彼女の顔を見たら、別人に見えたんだ。別人というより……前に見た顔を思い出せなかったんだ。こんなこと初めてで、どうしていいかわからない」