人は忘れる生き物だけど

例えば、人の噂も七十五日なんて言葉がある。人間の記憶は不思議なもので熱を含んだ話題でさえ七十五日経てば、あぁそんなこともあったねってくらいの熱量の記憶にしかならない。時に脳は記録することさえ忘れる。

人間は忘れる生き物だ。

高校三年生の二学期の期末テスト。僕は、英語が八点、国語が十二点、数学が六点、他の教科も三十点をかすることもなかった。

僕の母は学校に呼び出された。担任の先生と僕ら親子が向き合っている進路相談室は、真剣というよりは緩慢な雰囲気につつまれていた。

「このままだと大学進学は難しいです。決して記憶力が悪いわけじゃないと思うんですよ? よくテストとは関係ないことは覚えてるみたいですし」そう担任に言われて、母は目を伏せた。「専門学校などならどうでしょう?」と母は細々と返したけど「とにかくこの成績では就職だって厳しいです。留年も視野に入れていただかないと困ります」と返され。母は深呼吸みたいな溜息をつき。「わかりました」とだけ言って、急遽開催された、夕日に照らされた教室での三者面談は終わりを迎えた。

帰り道、手を繋いできた母は「私の子なのにねぇ……なんでかしら」と遠くの空を見つめながら言った。

「お母さん成績良かったのにね。遺伝しなかったんだよ」

僕は少しだけ皮肉を込めて言った。親が成績優秀だろうと子供に遺伝するわけじゃない。親がどんな馬鹿でも、育て方ひとつで子供の方が頭良くなったりする。

「あなたの努力が足りないんじゃない? 私はそこそこ有名な大学の法学部出てるのよ? お父さんだって理学療法士で大学で博士号とるくらい頭いいわよ」

「じゃあ、二人とも幼稚園の時のクラスメイトが何人いたか覚えてる?」