彼は「久しぶり」の挨拶に何も答えず、ソファーにどしりと腰を下ろした。髭面で髪もぼうぼうに伸ばし、煮しめたような茶色いTシャツも、穴の開いたGパンも、黄色のサンダルも、ただ何か気取っているようにしか見えない。
「何してたんだ」。
マスターが運んできたコーヒーを一口すすり、ぼくは訊いた。
「あちこち」
「あちこちって?」
「あちこちだよ」
「くそー、やめた!」
と村瀬はゲームのテーブルをポンと叩くと、初めて園田の顔を見た。
「朱美が心配してたぞ。どこ行ってたんだ」
「北海道だ」
「へー」
「叔父貴のバイクを借りてさ、海岸線をぐるっとしてきたよ。宗谷岬まで行ってきたんだ」
「ふーん」
園田はとたんに饒舌になっていた。ぼくは少し腹立たしかった。村瀬にはちゃんと答えたのだ。
「朱美には会ったのか」
「まだだよ」
「電話しろよ」
「いいよ」
村瀬は立ち上がると、カウンターの横のピンク電話のダイヤルを回した。
「出ろよ」
受話器を園田に差し出したが、園田はそっけなく「いいよ」と横を向いた。
「朱美か? ソノ、園田が帰ってきたぞ……アチコチ放浪してたみたいだ。電話に出ろって言ってるのに、こいつ恥ずかしがってるんだよ……ああアルムにいるから来いよ」
受話器を置くと、「なあ、ヘルスって知ってるか」とぼくと園田の顔を覗き込むように、村瀬は自慢げに言った。