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第二章 千駄木苦悩の三週間
「やっと来たな」
「うん、結講長かったよ」
「この前のときより痩せたな、ホーチミンみたいだ」
「そんなに痩せたか」
「ああ、あご髭が伸びればもっと似てくる」
と言いながら腕を伸ばし
「手はどこまで動くようになった?」
「まだこんなもんかな」
肘を曲げ、少しだけ上がるようになった腕を力の限り持ち上げた。
「東京は蒸すだろ」
と言って北海道のときとあまり変化のない腕を見ていた。
「ああ、これほど暑いとは思わなかったよ」
それから一時間ほど、アイオワに行った彼の友達でもある村橋のことや、豪徳寺の下宿のおばさんのことなど話していた。