邂逅─緋色を背景にする女の肖像

「さらにもう一通の書類には、その他の賞の受賞者一覧と、三週間後にロンドンで開催される、芸術祭の授賞式と受賞記念披露パーティの概要が記載され、ぜひとも出席戴きたい旨の内容がしたためられていた。

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早速、フェラーラ夫婦がそろって私のところに報告に来たから、一緒に喜びを分かち合った。この日をもって、私とフェラーラ夫妻は一身同体の仲間となったのだ」

コジモは一身同体の仲間というところをことさら強調して言った。

「父はともかく、母も同じ様子でしたの?」

エリザベスは、乾ききった口から声を絞り出すようにして訊いた。

「そうさ、もちろんアンナさんも同意したんだからみな同じさ。私もフェラーラのエージェントになったから、授賞式と受賞披露パーティーに招待された。式は例年通り執り行われたが、アンドレの絶大な評価の効き目が大きくてね、フェラーラ以外の受賞者はすっかり影を薄くしていた。

会長のエドワードの挨拶に、いつもとは違う硬さを感じたのは私だけだったかもしれない。しかしフェラーラの挨拶は恐ろしく短いものでね、たった一言、確か、『受賞を光栄に思い、さらに精進いたします』というものだった」

「フェラーラさんはいつもそういう寡黙な人でしたの?」

「そうですな。コミュニケーションが下手だけなのかもしれない。でも、パーティーは例年と異なり、極めて華麗だった。何しろ天才画家フェラーラが誕生したわけだからね。溢れんばかりの満足感が一挙に押し寄せた一日になったはずだよ。それに、ギャラリー・エステとしても格別な宣伝になった。

余談となるが、この日の主役はもちろんピエトロだったが、会場ではもう一人の主役が誕生していた。モデルである彼の妻、アンナさんだ。彼女の美しさはこの日出席していた全ての女性の中でも傑出していたからね」

「そういう場にいつも姉のユーラさんは同席していたのかしら?」

「当時、英国の主要な美術のコンテストには、何らかの形で必ずロイド財団が関係していてね。表彰式には会長のエドワード・ヴォーンがいつも出席していたから、娘さんを一緒に連れてこられなかった。子供はいつもフィレンツェに残してきたというわけだ」

「かわいそうに、姉も犠牲者だったのね」

エリザベスは眉根を寄せて悲しんだ。

「話を続けましょう。フェラーラは、明くる年の一九六七年三月、今度は、ポートレート部門ロイド賞を受賞した。