1.生物模倣工作とは:どのように生物的性質をものに組込むか

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生物模倣工作においては、付録に説明する現代バイオミメティクス(生物模倣技術)における厳密な模倣を緩やかな模倣に換えて、作ろうとするものに生物の持つ特徴ある構造や物理特性を与えるように試みます。

この考え方で使い易さを追求するのですが、その際、生物をそのまま真似るというよりも工作物の構造や動きを生物に近付けるという考え方を採ります。

従って、作られたものの多くは生物的な構造あるいは形態を持つことになります。

例えば、筆者は、新しい文房具を作る時には最初に甲虫のはねの二重構造を考えます。

甲虫の翅は殻とも言える堅い鞘翅さやばねと飛翔用の薄く繊細な翅(後翅)から成っていて、地上に居る時には鞘翅の下に邪魔で弱い後翅を折り畳んで守り、飛ぶ時には鞘翅の下に後翅を広げて羽ばたいて揚力を出します。

甲虫の持つこのような外剛内柔の二重構造は文房具にピッタリなのです。ノートや本は皆丈夫な表紙の内側に薄い紙を納めていますし、万年筆は堅いケースの中に柔らかいペン先が納められているわけで、構造的に見ると文房具の多くが外剛内柔の二重構造を持っています。

この外剛内柔構造に別途生物の持つ構造の優れた点や新技術を組込むことが出来れば、新しい文房具を作りだすことが出来るだろうと考えるわけです。2章に紹介するアジル・メモ、5章に紹介するビートル手帳はこの考えから生まれたものです。

ところで、文房具のダブル・クリップが人の手あるいは指に近い動きをする最も簡単な機構の一つとしても見なせることも注目に値します。生物とは関係がないようですが、メカ的なものにしては珍しく生物的性質を持っていると考えることが出来るのです。