第3作『山脈(やまなみ)の光』
テクニックにおいても、色使いにおいても、絵に懸ける情熱においても、とてもかなわないと思った。
そして朱美に対する思いにおいても。
「いつ、描いたんだ」と村瀬が園田に訊いた。
「うん。ひと月前、家に来てもらってさ」
ぼくが暗い美術室で奮闘していたときに、園田は朱美と一緒にいて、悠々とこの絵を仕上げた。ぼくのあの奮闘と昂揚は、いったい何だったのだろう。
「よく描けてるよな。なあ、浅野」とコウちゃんは朱美を呼んだ。
「うん、でも、まだ満足してないんだよね」と朱美は梱包されていた段ボールを片付けながら答えた。
「まだまだ、甘いんだよなー」と園田は頭を掻いた。
美大に落ちた以上の敗北感をぼくは感じた。
サンタが園田に何かを話しかけた。
「おい、おれの彫塑まだトラックだ。降ろすのを手伝えよ」
サンタが園田の作品にどんなことを言うのか聞きたかったのに、村瀬に命令されてしまった。鈍感な奴と思いながらも、その場から渋々離れた。
村瀬のオブジェは重かった。下級生と五人がかりで、軽トラから降ろして梱包を解く。中から巨大な蛇のような生物が何匹も絡み合ってる物体が現れた。
「何だこれは」
「キング・ギドラさ」
「それだったら、頭は三つだろ。八つあるぞ」
「じゃあ、ヤマタノオロチじゃないか」
「おれの内的なキング・ギドラさ。おれの高校生活の総決算だ」といつになく真顔で村瀬は言った。
地下の展示室への搬入が終わると、小ホールの入口脇の食堂コーナーでラーメンを食べるのが、ぼくたち美術部の決まりになっている。いつもは閑散としているアプローチは、十五、六人の高校生で騒がしくなる。当然、顧問のコウちゃんのおごりだ。
「今年は頑張ったから、チャーシューメンにしてくれよ」
「おい一年、水運べ」
「わー、誰だ! おれのチャーシュー盗ったの」
「村瀬先輩のところ三枚も入ってるぞ」
「おれ知らないよ」村瀬はチャーシューを三枚同時に箸でつまみ、つるりと呑み込んだ。
「あっ、きったねー」
いつもながらの、チャーシューの奪い合いが始まる。