『こんどこそ、ぼく、ほえたりないたりしない。やくそくするよ』
ぼくはかすかにうなって、男の子の手を、ペロペロなめました。
男の子は、朝になると出かけ、夕方になると、いろいろなにおいをつけて、帰ってきました。
ぼくは、そのにおいをかぐのが、おもしろくてたまりませんでした。
それから男の子は、ぼくをさんぽにつれていってくれました。
「おーい、トワ!」
こより川の土手を歩いていると、男の子のなかまが、うれしそうにほえてきました。
「それ、トワの犬?」
男の子はなかまたちから、『トワ』と呼ばれているようです。
トワはぼくを、川のほとりのグラウンドに、つれていきました。
「クロリ、ボールをひろってきて!」
トワの手から、なにかがとび出しました。
ぼくは、それを追いかけて、つかまえました。
そして、まっすぐトワのところに、くわえていきました。
「わぁっ! すごい」
「りこうな犬だな!」
トワのなかまが、ぼくを見て、口々にほえています。
「でも、この犬、ちょっとへんなんだ。ちっとも、ほえないんだ」
トワは、なぜかしんぱいそうに、ぼくを見おろしています。
「へぇぇ。ますます、おりこうじゃん」
「そうかなぁ……。犬がほえないなんて、人間がしゃべらないのと、おなじだよ。むだぼえって、人間にとってのつごうだろ? そんなの、かわいそうじゃないか…」
トワは、ぼくのあたまをなでながら、やさしくうなり声を立てました。
「クロリ、ほえたかったら、ほえていいんだぞ? むりやりがまんしなくて、いいんだ」
ぼくには、人間のことばはわかりません。
でも、トワやなかまの男の子たちが、ぼくのことをしんぱいしてくれているのが、わかりました。
『みんな、ありがとう』
ぼくは、ワンワンほえたいのをがまんして、しっぽをブンブンふってみせました。