ところが、それから十数年経って、奇怪な事件の中に、早川が現れたのである。
能登半島の北端、曽々木海岸近くの崖下に転落したオートバイが発見された。オートバイは大破していた。その近くに、男の死体があった。だが、男の頭、顔は岩にでも激突したのだろうか。原形をとどめないほど傷ついていた。
詳細を調査したところ、男のズボンのポケットより、意外にも早川岩雄という運転免許証が見つかったのだ。さっそく、地元の石川県警も加わり調べたが、体形が早川に似ている、という程度で、この男が早川であると断定されるまでには至らなかった。
早川岩雄は、こんな事件の中に浮き沈みしていた男である。運転免許証は、確かに、早川であった。が、あの事件で早川は本当にこの世から消えたのであろうか?
沖田刑事は、早川岩雄ならびにこの男が引き起こした事件について、執拗すぎるくらい調べた。だが、どうもはっきりしない。疑惑がふくらむばかりだ。若山洋子殺しの手口、これは、早川岩雄のそれとそっくりではないか、と沖田刑事は思った。
同じ警察管轄内で、わずか1ヵ月の間に2件の殺人事件が発生したことは、管内を緊迫させている。二つの殺人事件が関連するかどうかは別問題として、捜査本部が〝連続殺人事件捜査本部〟と統一、再設置されてから、数ヵ月が経過した。
沖田刑事は、従来と同様に、香村刑事とペアになって捜査活動をしている。けれども、香村とともに行動するのは、気が進まない。
香村刑事が事件と関係があるのではないか、との噂が生じているのだ。