棟方さんの様子を見ると、まだぴんときていないようだった。
「そんなことより、あなたが実家を訪ねてきたというのは、清躬くんて今、御両親と住んでいないということ?」
橘子はふと疑問に感じて、尋ねた。
「ええ、一人でくらされてます」
ふーん、そうなんだ。
「でも、訪ねてきたところがまるで見当違いじゃ。まさか、清躬くん本人がこの絵葉書の住所だと教えたわけじゃないでしょ?」
「ええ、そんなことは」
「そりゃ、そうでしょう。というより、清躬くんに住所を教えてもらわずに来たということ?」
棟方さんは黙ってうなづいた。橘子は拍子(ひょうし)抜けした。
「本人からきかずに、何年も前の葉書きの住所を目当てに訪ねてくるなんて、結構無謀じゃありません?」
「ええ、でも……」
棟方さんは小声になった。ちょっときつい言い方をしたかな。
「清躬くんに内緒で来たの?」
「ええ」
「それにしたって。その葉書き見せてもらえるなら、今もそこに御両親がおられるかどうか本人に確認できたんじゃないですか?──いえ、御免なさい。あなたを責めてるわけではないのよ」