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なつかしい写真
「ええ」
曖昧な返事で一旦受けながら、きちんと言いなおす。
「それは勿論私としてもありがたいので、是非そうしていただきたいです」
「あ、どうもありがとうございます」
「で、お友達の権利、早速行使しますけど、」
橘子はちゃっかり言った。
「さっきのスマホの写真見せてもらっていいですか?」
「はい」
橘子はさっきのスマホの写真を見ながら、あらためて尋ねた。
「この左の方のこと、ちゃんと話していただけるということだったけど、いま話していただいていいかしら」
「ええ。なにからお話ししたらいいか、要領を得ないかもしれませんけれども……あの、そうですね、」
紀理子さんは本当に、どう話せばよいか言葉を探しているふうだった。
「あの、橘子さん、小学校六年生の時に清躬さんが引っ越しされたということでしたけど、清躬さんとはその後それっきりですか?」
「うん、それっきり」
橘子は答えた。話を単純にするため、高校一年生に会った時のことは敢えて言わなかった。
「その写真の清躬さん、小学校の時とかわっておられますか?」
「ううん。清躬くん、全然かわってないわ。そりゃ小学校の時は背丈が違うし、子供っぽさはあったけど、勿論それは当たり前のことだから」
橘子は或ることをおもいついて、
「その当時の清躬くんの写真、あるんだけど、見る?」
小学校の時の清躬は、自分の家族と写っている写真以外は二枚しかないが、それらの写真はとてもいい写真だ。
「清躬さんが小学校の時の写真ですか? ええ、是非」
紀理子さんが弾むような声で言うので、清躬のことが本当に好きなんだなあと橘子は感じた。
「わかった。いま持ってくるので、ちょっと待っててね」
そう言うと、橘子は飛び出すように部屋を出て、階段をかけあがり、二階の自分の部屋に行った。昔のアルバムを取り出す。目的のものはすぐ見つかった。
あ、これもスリーショットだ。小学校の時の清躬、橘子、それに、和華子さんが写っている。清躬と二人で和華子さんのおうちに遊びに行った時、和華子さんがカメラをセルフタイマーにして撮影してくれたものだ。
和華子さんが写っている唯一の貴重な写真。和華子さんの美しさに眼を留めてしまうと時間が止まってしまう。
もう一枚の写真──こちらはツーショット、和華子さんが清躬と橘子を二人ならばせて撮ってくれたもの──と合わせてアルバムから引き抜いて、橘子は再び居間に戻った。