春:5 姫君も食べた土筆(つくし)
春風に誘われて土筆摘みにでかけました。いつもの場所、今年もありました。
王朝時代の人々にとっては、土筆も、多分貴重な食材だったことでしょう。油のなかった時代、おひたしにして食べていたのでしょうか。
源氏物語では宇治十帖に登場します。父八の宮に続いて、姉君も亡くなって、寂しく暮らす中君の元に、山の阿闍梨から蕨(わらび)と土筆が届けられています。「つくし」は「つくづくし」と言われていたようです。
阿闍梨のもとより、
年あらたまりては、何ごとかおはしますらむ。御祈りは、たゆみなくつかうまつりはべり。今は一所の御ことをなむ、やすからず念じきこえさする。
など聞こえて、蕨、つくづくし、をかしき籠に入れて、「これは童べの供養じてはべる初穂なり」とてたてまつれり。
(早蕨の巻)
阿闍梨の手紙には「今となりましては姫君お一人の延命息災をひたすら仏に祈っております」とあって、ただ一人残された中君を案じています。その思いを蕨と土筆に籠めて贈ったものです。結局、中君は一人で宇治に寂しく暮らすことはなく、匂宮に引き取られて京に移り住むことになります。