堀内と伊藤はいつも経済的にお世話になっている織田が入院したことを知り、病院に見舞いに出かけていった。
堀内と伊藤が病室で織田と話をしている。
話は研究の内容ばかりで、とても見舞いに来た人の話ではないが、この2人は世間話の仕方もわからない研究馬鹿であるから仕方がない。
織田も研究の状況や熱心に話す内容に大きくうなずきながら関心をもって聞いていた。
「織田さん、この前改良エンジンの実験をお見せしましたよね」
織田は相槌を打ちながら
「あのときはものすごい勢いで炎と白煙が出てびっくりしました。燃焼率を上げるために、エンジンの中の気流回転をよくして排煙を効率的に出させる実験でしたね」
「そうです。あの実験でエンジン内の羽の位置を変えてミクロの水泡を投入したら20 %程度燃焼効率が良くなったのですが、今度は排煙をもっと効率的にできるように出口の部分を出力によって可動式にするように変えてみました。そうしたらそれだけで5%もエンジンの性能が上がったんです」
「そうですか、それではいよいよ実用化できる性能になったんですね」
「いえ、私としてはもう少し燃焼効率を上げたいんです。燃焼効率が上がればその分機体を軽くでき、荷物を多く運ぶことができます」
「伊藤さんにお願いしてある、燃焼効率最適化ソフトができ上がってくれば、もう一段良いエンジンができると思います。伊藤さんが頼りですよ」
そこに主治医である本多が退院前最後の診察に来た。
※本記事は2020年12月刊行の書籍『Uリターン』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。